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 今年のお正月にベトナムに行ったときに驚いたことがあります。新聞によると「ベトナムのコーヒー輸出量がインドネシアを追い抜いて世界第2位」になったらしい。南米のブラジルやコロンビアあたりが主な産地だと思っていたら、東南アジアもがんばっていたんですね。マンデリンで有名なインドネシアを抜いて、現在ベトナムのコーヒー生産量は年間50万トン以上。そのうち48万トンが輸出され、残りが国内消費されるそうです。中部の涼しい高原地帯で栽培されたコーヒーは、もっぱら南部の人たちが愛好しています。というのも、中国に近い北部ではお茶、南部ではコーヒーを飲むのが習慣。

 プチパリと呼ばれるサイゴン(ホーチミンシティ)には、道端に椅子を並べた昔ながらのカフェがあちこちにあります。名物のバイクの津波をかいくぐって歩き回ると、熱気と喧騒で頭がくらくらしてきます。そこで「あー喉が渇いた、冷たいコーヒーが飲みたいよー」とカフェに駆け込んでも、すぐにゴクゴクと飲めないのがベトナム式コーヒーの辛さと楽しさ。「カフェ・スア・ダー(アイスミルクコーヒー)」と声をかけると、しばらくしてアルミフィルターがのった小さなコップと、砕き氷にスプーンを突き立てたコップが運ばれてきます。フィルターからゆっくり落ちる黒い雫が、コップの底に入れたコンデンスミルクの上にたまる様子がとってもきれい……だけど、まだ飲めないのがなんとももどかしい。じっと我慢して、やっとコーヒーが落ちたらふたを裏返してフィルターをのせ、かき混ぜてから氷の上に注ぎます。とろりと濃くて苦くて甘いコーヒーがちょうどよく薄まって、体の緊張がふわりと抜けていくようなおいしさ! 甘党の私にはぴったりなのですが、一緒に行った義父にはどうにも耐えられない甘さと濃さらしく、水を足しては上澄みを飲むのを繰り返し、飲んでもいっこうに減らない魔法のコーヒーとあいなりました。

 さて、ベトナムコーヒーは専用の金属製フィルター(アジア雑貨店で入手可能)を使いますが、エスプレッソ用のプレス式器具でもかなり近い味の濃厚なコーヒーが淹れられます。これは耐熱ガラス容器に長い棒のついた円形のフィルターを入れて押す仕組みになっています。

1 コーヒーの粉を1人分大さじ2~3を入れ、湯をほんの少し入れてふたをし、少し蒸らします。

2 湯を1/2カップ注ぎ、ふたをして(プレスはまだ)1分半ほど待ちます。

3 ゆっくりプレスしてからコップに注ぎます。

 そう、手順は紅茶とほぼ同じですね。カフェ・スアはコンデンスミルクをコップに入れておき、静かにコーヒーを注ぐと二層のコントラストが楽しめます。豆は苦みばしったフレンチロースト(深煎り)で、挽き方は中細か細挽きにしてください。飲み終わると、コップの底に粉が沈殿するのが特徴です。

 うちでカフェ・スア・ダーを飲むといつも思い出すのが、木陰にハンモックを張った街道沿いのカフェ。通りすがりに見ただけだったので想いが募り、もはや私の聖地といってもいいくらいの憧れの場所です。コーヒーを飲んでふわっとなごみ、あのハンモックで風に吹かれて昼寝をしたらどんなにか気持ちいいだろうな、と想像します。ベトナムコーヒーを淹れるときになんだかいそいそしてしまうのは、こんな想いに浸れる期待感があるからですね、きっと。

(文 / 野澤幸代)   

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