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 緑、白、青、紅、黒、黄、と聞いただけで速やかに中国茶を連想できる人がいたら、私は頭をたれてその人を尊敬します。冗談ではなくて、中国茶というのはほんとに深遠な世界だと思うからです。

 昨今の中国茶ブームで、量り売りする専門店や丁寧に淹れて飲ませてくれる店が増えています。はたまたテレビの中国茶講座をビデオに撮って何度も観た人とか、中国や台湾の産地で買った珍しいお茶をくれる人とか、この数年、私のまわりにもかなりの数の中国茶通が出現しております。

 これはいかん、皆に後れをとっていると感じながらも、なんとなくストイックすぎる印象があって、中国茶にハマるのを意識的に避けていたのです。ところが先日、文山包種茶(ウェンシャンバオジョンチャ)、それも上質のものを本格的な作法でいただく機会があり、鼻からウロコ(?)が落ちました。これは発酵の度合いがもっとも浅い台湾の烏龍茶で、私のうちでよく飲んでいるお茶なのに、未知なる奥深~い世界があったのでした。

 まず小さくて細長い茶碗、聞香杯(ウェンシャンベイ)に茶を注ぎ、飲むための茶碗に手早く伏せて茶をあけ、聞香杯の中にこもった香りをかぐと、ランに似た馥郁(ふくいく)たる甘い香りがします。次にお茶を飲むと、スズランのような清々しい香り。この段階ですでに興奮していたのに、まだ先がありました。ニ煎、三煎とお茶を淹れ続けていくうちに、香りが変化するのですねぇ(自慢気になってすみません)。三煎目からの聞香杯からは、なんとパイナップルのような甘酸っぱい香りがするではないですか! これは私の印象で、他の人はマンゴーの香りとも言っていたので、的確な表現ではないかもしれませんが、とにかくめくるめく香りのミラクルワールドを初めて知ったのでした。やっぱり中国茶ってスゴイと改めて感じ入り、それ以来、襟を正して入門書などを読んでいる今日この頃です。

 中国茶の分類は発酵の度合いによって、不発酵茶=緑茶、軽発酵茶=白茶、半発酵茶=青茶、全発酵茶=紅茶、後発酵茶=黒茶、軽後発酵茶=黄茶に分かれ、さらに発酵度の微妙な差や製造法、品種や産地による違いがあります。お茶の発酵というのは茶葉に含まれる酵素が酸化することで、この度合いによって、味、香り、水色(淹れたお茶の色)が変化します。もとは同じツバキ科の葉なのですから、これだけのバリエーションを生み出した熱意と技術には感心してしまいます。

 とくに感銘を受けたのが、茶についての表現の巧みさと豊かさ。私にショックを与えた文山包種茶は「乙女の清らかな肌の香り」、長年熟成させた普洱(プーアル)茶の口当たりは、「皇帝のビロードの服」といわれることもあるそうな。なんとイマジネーション溢れる比喩でしょう。ワインに匹敵する実に洗練された表現法です。比べてみると、日本にも茶道の伝統があり、心静かに茶をいただく文化があるのに、「結構なお手前で」とひと言で言い尽くしてしまう寡黙さが、ちょっと悔しくなりました。

 こうして私は、幽玄の深山へ分け入るような覚悟で、中国茶の道のりを一歩踏み出したのです。次回は、日本でも人気の高い烏龍茶のおいしい淹れ方や味わい方を一緒にお勉強しましょう。

(文 / 野澤幸代)   

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