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 私が小学生の頃、朝の焙じ茶に塩をほんのひとつまみ入れて飲むのが祖母の習慣でした。真似をしてみると味がきりりと締まっておいしく感じられ、「生意気だね」と家族に笑われながらも、神妙な顔をして毎朝儀式のように塩をつまんでいたっけ。なぜそうするのかは聞かず終いでしたが、今も朝だけはこの塩焙じ茶が気に入っています。

 最近は中国茶に続いて、日本茶が静かなブームになっているそうです。缶やペットボトルの日本茶がコンビニに並び、若い人たちも街角でぐいぐい飲んでいます。昔から日本茶は体にいいといわれ、近年の研究でそれが続々と解明されていることも人気の理由でしょう。曰く、日本茶にはビタミンB群やC、E、β-カロテン、ミネラルが豊富に含まれ、特にお茶の渋み成分であるカテキンが注目株です。カテキンはガンや糖尿病、動脈硬化の予防に有効で、抗菌・解毒作用もあるとか。お茶処静岡には、風邪予防のために日本茶のうがいを実践している小学校もあります。

 ずっと身近にあってなに気なく飲んでいるせいか、思えば日本茶の種類や製造法というものが、私、今ひとつ理解できていません。遅まきながら、少しかじってみました。

 まずは緑茶の代表である煎茶は、摘んだ茶葉を蒸した後にさまして酸化(発酵)を止め、その後何度も揉んでから乾燥させます。ペットボトルの日本茶に多い深蒸し茶は、長く蒸すために濃厚でまろやかな味になって、渋みと苦みが少ないのだそうです。

 もっともお高い玉露は、新芽の時期に直射日光を遮って育てた、まさに乳母日傘のお嬢様。強いうまみと甘み、とろりとした口当たりは日本茶の最高傑作です。抹茶は玉露と同様に育てた茶葉を石臼で挽いたもので、お鮨屋さんのおなじみの粉茶は、煎茶や玉露の製造工程で粉末化した茶葉なのだそうです。粉茶って濃く出すために粉にしているのかと思ったら、玉露の粉だったりもするんですね。お鮨屋さん、疑ってごめんなさい。

 そして、番茶は煎茶用の茶葉を摘んだ後に、夏から秋にかけて刈るニ番茶なんですって。摘むんじゃなくて刈り取るくらいだから、大きな葉や茎が混ざっているというわけ。私の好きな焙じ茶は、番茶や下級煎茶を高温で煎ったものだとわかりました。

 なるほど、これで日本茶ファミリーの家系図がだいぶ見えてきた、と思ったら、やれやれ、最近お茶好きの間で評判になっている茎茶や芽茶という分家筋がいました。

 茎茶は茎や葉柄だけのお茶で棒茶とも呼ばれ、一煎しか飲まないお茶です。煎茶や焙じ茶の茎茶があり、とりわけ玉露の茎茶は雁が音(かりがね)という名で珍重されます。芽茶は煎茶や玉露の製造工程で小さく丸まった新芽や葉の切れ端のお茶で、ガラスポットで淹れると葉が開いていく様が目を楽しませてくれます。味と香りは、茎茶が若々しいシャープな感じで、芽茶は苦みばしった濃厚さが特色。

 ところで、京番茶ってご存知ですか? 私は京都の料理店でいただいて、スモーキーな香りと香ばしさに驚きました。さっそく買い求め、茶葉を見てもう一度びっくり。これがどう見ても、紛れもなく枯れ葉なのです。ガサゴソした大きな葉や茎、小枝(!)をぐらぐら煮出して飲むと、番茶よりも焙じ茶に近い風味。それもそのはず、茶葉を揉まずに干してから煎るそうです。

 京番茶未体験のお客様に出すと、首をかしげて「これって中国茶?」と言います。そこでおもむろに枯れ葉を披露するのが喜びでしたが、次回からは付け焼き刃のうんちくも語るとしましょう。そうそう、夏は冷たくした京番茶もおすすめですよ。

(文 / 野澤幸代)   

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