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喧騒と熱気渦巻くスーク。4000年の歴史も味もナイルの賜物

写真①

エネルギーと砂埃が充満する砂漠の中の大都市カイロ

 アテネからのナイトフライトでカイロ上空に来ると、ほの暗い街のそこかしこに鮮やかな緑色のイルミネーションが輝いている。モスク(イスラム教寺院)の尖塔を照らす灯だ。ああ、またコーランの朗唱が響き渡る国に来たのだ、と灯を見詰めながらイスタンブールを想い出した。

 翌日、友人の友人であるカイロ在住の日本女性に連絡をしたら、うちに泊まればと誘ってくれたので、厚かましくも、初対面の人の家に夫婦で寄宿することになった。旅先だと、出逢ったばかりの人の好意にすぐ甘えてしまう。日本の生活では遠慮が先に立つが、一期一会の感が強いからだろう。

 彼女、Yさん宅は広い上等なフラットで、運転手も雇っている。私たちは鰻やてんぷらに狂喜し、日本のテレビ番組の録画を楽しみ、猫足の椅子でくつろぐ快適さに浸った。だが一歩外に出ると外界は紛れもなくカイロ。喧騒と熱気が渦巻いているのだ。

 容赦なく照り付ける強烈な陽射し。けたたましくクラクションを鳴らして走る車の洪水。乾いた風に舞い上がる砂埃。すし詰めのバス。掘り返された歩道。これがカイロを描くモチーフだ。ここに民族衣装ガラべーヤをひきずる人物を配し、アラブ音楽で陰影をつければ点景が出来上がる。

 街の中央を流れるナイル河沿いはまだ風があるが、9月のカイロは暑い。歩いていると頭がボゥーとし、砂埃で目が痛くなる。アフリカ大陸第一の国際都市といっても、街のはずれは砂漠でピラミッドがあるのだ。

 洋服姿の人が多い新市街の一画で、ガラベーヤの男たちがたくさん行列していた。聞くと、アラブ諸国に出稼ぎに行くために、国際運転免許証を申請する人たちだという。

 一方、高級ホテルでは、白い民族衣装を着たアラブ産油国からの男性観光客が目立つ。大金持ちは欧米で遊ぶが、小金持ちは母国では御法度の酒も女性とも遊べて、言葉も通じる近場のエジプトに来るのだそうだ。

 このての図式は日本と東南アジアに限らず、どこにでもあるものだと、ボゥーとなった頭でしみじみ考えた。そういえばイスタンブールには遊郭があるし、イスラム教国だって例外ではないのだ。

スークの人込みに揉まれつつ、アラビア数字の値札を解読する

 カイロにはいくつものスーク(市場)があり、ナイルの賜物である野菜や果物、牛や羊、ラクダの肉、スパイスなどの食料品、衣料品、雑貨などを求める人でごった返している。

 しかし、スークに並んだ豊富な食料品とは裏腹に、人口増加や経済問題を抱えるこの国の食糧事情は厳しく、週一回の"肉なしデー"がある。この日はスークだけでなく、レストランでも肉料理はなし。大多数の庶民にとっては、肉はまだまだ御馳走である。

 スイカやマンゴー、ブドウ、洋ナシがうず高く積まれた果物屋で、私の目を引きつけたのは、目の醒めるような真っ赤なデーツ(ナツメヤシの実)だった。デーツは砂漠の遊牧民の主食で、秋の収穫期以後は干しデーツとして保存される。赤いデーツをかじるとほんのり渋味があるが、サクサクとして爽やかで、初々しい甘さだ。隣の籠は暗赤色に完熟したデーツで、これは手がベタベタになるほど芳醇な甘味があり、都会ではデザートに食べる。アジュワと呼ばれる完熟デーツは、プルーンをあっさりとさせた味に近いと思う。

写真②

 夥しい数の天板を店先に積み重ねたパン屋がある。カメラを向けると、いきなり罵声を浴びせられた。黒い民族衣装の老女が怒って、身振りであっちへ行けと言っている。彼女を撮ろうとしたのではないが、アラビア語で抗弁できるわけもないので、すごすご退散した。男性や子供は要らぬポーズまでつけてくれるのに、女性は概して写真を嫌う。

 話をパン屋に戻すと、その量と種類の多さには驚いてしまう。古代ギリシア人がエジプト人のことを"パン喰いびと"と呼んだそうだが、現代エジプト人もその伝統を守り、山ほど買って行く。平たくて円いアイシというパンが最も日常的なパンで、大人なら一食に4~5枚は食べる。アイシは未精白の全粒粉に雑穀が混ざっているので、見かけはがさつだが、噛みしめるほどに味がある。

 さて、スークで買い物する段になると、直面する問題は値札の数字だ。エジプトの金はアラビア数字しか書いていないから、まずこの国に来て覚えなければならないのがこれである。アラビア数字は右から左へだが、数字は左から右へ書く。ちなみにスークで買ったブドウはキロ45円、スイカはキロ38円で中が160円だった。どちらも味が濃くておいしい。

(文・写真 野澤幸代)     

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