• トルコ(前編)
  • トルコ(後編)
  • ギリシア(前編)
  • ギリシア(後編)
  • エジプト(前編)
  • エジプト(後編)
  • 続・トルコ(後編)
  • インド・ネパール(前編)
  • インド・ネパール(後編)
  • 続・ネパール(前編)
  • 続・ネパール(後編)
  • インドネシア(前編)
  • インドネシア(後編)
  • 続・インドネシア(前編)
  • 続・インドネシア(後編)
  • マレーシア・タイ(前編)
  • マレーシア・タイ(後編)

香り高きバスで巡る旅は、季節を、田園を、奇観を走り抜ける

地中海から中央トルコへ、秋が駆け去る音が聴こえる。

ユルギュップの俯瞰写真

 エジプトからイスラエルを抜け、キプロス島、ロドス島に寄り、地中海沿いの港町マルマリスに着くと、約二カ月ぶりのトルコはもうすっかり秋になっていた。

 翌日、夜行バスに乗り、奇妙な地形で有名なカッパドキアに向かった。トルコのほぼ真ん中に位置する高原地帯にある小さな街、ユルギュップが目的地だ。内陸部へと行くに従って、次第に秋の気配が深まって行く。地中海の潮風は涼しかったのに、ユルギュップのポプラを揺らす風は寒い。

昼食をとる老人の写真

 高台のペンションに部屋をとり、裏庭に出てみると、ハンチングを被った老人が食事をしている。三日月形のナイフでモロモロとしたチーズをパンに挟み、私にも一切れくれた。フランスの山羊のチーズと比べると、数倍も匂いが強烈で、かつ塩辛い山羊のチーズだ。
「ジャポネ、おいしかったかい?」
と尋ねられてつい頷くと、もう一切れ作ってくれようとするので、慌てて固辞した。

トマトペーストの写真

 裏庭の日向に置いてあるトマトペーストを、女主人が時折りかき混ぜに来る。エキシと呼ばれるこのペーストは、夏の完熟トマトを煮詰めたもので、各家庭で冬に備えて作るのだそうだ。トルコ料理の大半はトマトを使うので、欠かせない調味料なのである。

 エキシにしてもそうだが、街や周辺を歩くと、冬支度の光景があちこちでみられる。主婦はカボチャの種子を干し、屋根の上にカボチャを蓄え、ビシュヌというサクランボに似た果物やザクロを煮詰めて濃いジュースを作る。道を行くロバの荷車には雑木が積まれ、軒下には薪が積み重ねてある。畑では馬がジャガイモの畝を鋤起こし、家族総出で拾い集める。

田舎の婦人の写真

 このユルギュップの人々の冬支度を目の当たりにして、ここにはなんと濃密で完全なる時が流れているのだろうと私は感銘を受けた。季節の移ろいが人間を動かしているはずなのに、人々の営み自体が生命を刻み、時を刻んでいるように思われてならない。

 畑を耕したこともなければ、自然の厳しさも知らない者の単なる憧憬かもしれないし、異国の情緒に酔ったのかもしれないが、完全なる時が刻まれて、晩秋の暮れてゆく音が聴こえた。

妖精には出逢わなかったけれど、奇妙な谷で果実の林を見つけた

カッパドキアの写真

 観光名所には謳い文句だけというところもあるが、カッパドキアの不思議さは一見の価値があると思う。実に奇妙な世界なのだ。

火山の噴火後の地殻変動で露出した地層が雨に侵食され、キノコ形やトンガリ帽子形の大きな岩や、フリルを散らしたような桃色の谷もある。また、弾圧を受けたキリスト教徒が作った洞窟教会や、戦乱時は隠れ忍んで住んでいた地下都市もある。

 地下八層、収容人数1万5000人の地下都市を見学したが、礼拝所や厨房、居住区などに分かれ、もちろん換気孔もある。最大の地下都市は未公開だが、収容人数がなんと6万人。ただただ驚いてしまうばかりである。

 カッパドキア観光の1日ツアーのメンバーは、アメリカ人3名、イギリス人2名 スペイン人4名、日本人3名。ガイドがしごく陽気なトルコ青年で、崖の上の教会や照明のない洞窟、階段のない鳩舎(大柄な男性が女性を抱き上げて登らせ、帰りは飛び降りて来る女性を受け止め全員成功)など、まっとうなツアーではまずいかない場所にも行った。

 この”冒険ツアー”の途中で谷を歩いていると、リンゴの林にさしかかった。正確にはリンゴ園と言うべきものだが、ガイドは
「さぁ皆、食べようぜ」
と声を上げ、両手のリンゴを齧っている。
「エーッ、ほんとにいいの!?」
とか言いつつも、皆ムシャムシャ。リンゴを齧りながら進むと、今度は洋梨の林があり、次にマルメロの林、そしてザクロの林。

果実の写真

 妖精や伝説上の生きものが出てきそうな谷を、果実をもいでは進んで行くと、なんだか現実感が失せて行く。
「ここは楽園(パラダイス)か、いや天国(ヘブン)かな?」
と誰かが言うと、誰かがこう答えた。
「きっとエデンの園だよ」

 禁断の実を食べた他のメンバーがその後どうなったかは知らないが、私たちは再び夜行バスに飛び乗り、西へと走った。

 エーゲ海に近づくにつれて空は澄み、陽差しが強くなってくる。綿花畑を抜けて着いたパムッカレでも、自然の造形に目を見張った。

パムッカレの写真

 崖の上から石灰を含んだ温水が湧き出て、千枚田のような石灰棚ができ、湯が流れている白い奇観である。マイルドセブンのテレビCMで流れたことがあるから、あぁアレ、と覚えている人もいると思う。石灰棚に登ると反射光が眩しく、汗が吹き出る。吐く息が白かったカッパドキアから一夜明けて、またも不思議な情景の中で今度は汗をかいている。妙ちきりんな気分になった。

(写真・文 野澤幸代)      

※文章・写真の無断転載、複製を禁じます。


エジプト(後編)へ戻る        続・トルコ(後編)へ→