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香り高きバスで巡る旅は、季節を、田園を、奇観を走り抜ける

シーズンオフのトルコの港の写真

旅の食卓には蜂や猫も参加し、妖艶なベリーダンサーが舞う

 旅の間にはさまざまな出来事が多く、結構忙しいものなのだが、チェシュメで過ごした一週間は何事もなかったために印象深い。

 エーゲ海に面したリゾート地ではあるが、10月下旬ともなると客はまばらで、風は肌寒くて日光浴も覚つかない。土産物屋や革製品店の大半は店じまいし、カフェでは新聞を読む主人の下で猫たちがじゃれあっている。扉を閉ざしたジューススタンドの日除けが風にはためき、独り言をいっているだけ。

 活気に満ちた季節が幕を降ろす物寂しさとともに、街の穏やかな素顔が戻ってきつつある時だった。観光も日光浴もできないが、港からのメインストリートを10分も歩くと町はずれに出てしまう。この小さな町が気に入り、私たちはキッチン付きのペンションに落ち着いた。

チェシメのパン屋の写真

 朝は焼きたてのエキメッキ(フランスパンに近い)を買い、バターと蜂蜜で食べる。トルコは養蜂業が盛んで上質の蜂蜜が手に入るが、運悪くペンションの前が養蜂家なのには困った。テラスの食卓で蜂蜜を開けるやいなや、蜂が飛んで来て離れない。

 私たちの食卓に参加するのは蜂だけではなく、近隣の猫が子猫と一緒に10匹ほどやってくる。素朴に驚いてしまったが、パンの国の猫や犬はパンを食べるのだ。ギリシアでも、エジプトでもそうだった。もっとも、パンよりも肉や魚の方が好きらしいが。

ベスト・ケバブの写真

 昼食は港の「ベスト・ケバブ」というスタンドで、羊肉を焼いてスライスしたドネル・ケバブ・サンドを買うのが日課になった。店名に恥じず、トルコ1だと私たちは思う。

タコのヌメリ取りの写真

 暇に飽かせて町や岬を歩き回っていたある日、タコを釣糸で結び、縄跳びのように地面に叩きつけている漁師に会った。
「こうするとタコが柔らかくなるし、ヌルヌルやイボも取れるんだ」
と語りつつバーンバンと勢いよくやっていたが、ほんとかしら。

 夕方になると、港で釣りをしている夫を迎えに行き、釣果がなければ肉などを買い、夕食を作るという暮しである。食料品は何を買っても、新鮮で安くて嬉しい。八百屋のお兄さんが小粒のブドウを指差して、
「これはスルタヌといって、スルタン(トルコ帝国の王様)のブドウだよ。どう?」
と言う。洋菓子作りに使う干しブドウのソルタナレーズンは、これのことらしい。

ベリーダンスの写真

 静かなチェシュメの最後の夜に、一流ホテルで催される今シーズン最後の"トルコの夕べ"に出かけた。寒風吹きすさぶ中庭で、客は革のコートを着たまま食事をし、民族舞踊と音楽を楽しむのだ。

 他のイスラム教国では禁止されているベリーダンスが始まった。トルコ人曰く、お腹の肉が波打つ煽情的なダンスなのだが、外国人客の審美眼を考慮してか、スリムな若いダンサーである。チップを彼女の衣装に挟むと、客のテーブルに乗って踊るのでこれが大うけ。いやはや、旅の食卓にはついにセクシーなベリーダンサーまで載ってしまうのである。

コロンの洗礼を受けて走るバスと、ミニバス疾走のカーチェイス

 トルコ国内の交通は、鉄道もあるがバスが速くて便利なので、私たちはすべてバスで移動した。長距離バスはほとんどベンツの大型バスで、広いリクライニングシートだから夜行も苦にならない。

 トルコの長距離バスの面白いところは、オー・デ・コロンのサービスだ。バスが走り出すと、車掌がコロンの大瓶を持って回り、客は両手でコロンを大量に受けて首や髪につける。一斉にやるから車中に香りが充満して、私など気分が悪くなりそうになる。が、よくしたもので安香水なので、しばらくすると香りはすっかり消えてしまう。

 数時間おきにバスターミナルかドライブインに止まり、走り出すたびにコロンが振りまかれる。日本人だとおしぼりをサービスするところだろうが、香りをつける文化と拭い去る文化などという違いがあるのだろうか。でも東南アジアでは、コロン漬けのおしぼりサービスという中間的存在もあるから、この考察はやめておこう。

 トルコのバス旅行で忘れられないのは、ベルガマからチャナッカレに行ったときのことだ。ベルガマが幹線道路からはずれているため直通バスはなく、隣の街で乗り換えるべくミニバスに乗った。このバスは客がスシ詰めで走っているのに、車掌が何か叫ぶと、立っている乗客が折り重なってしゃがみ込んだ。見ると対向車線からパトカーがくる。定員オーバー隠しだったのだ。

 幹線道路に出てまもなく、大型バスが風のように追い越して消えた。私が、
「あれ、チャナッカレ行きでしょ?」
と何気なく車掌に尋ねたら、
「オー、ユー、チャナッカレ、OK!」
と胸を叩き、運転手に何事か怒鳴った途端、定員オーバーのオンボロミニバスは猛然と急加速し始めた。車体を震わせながら追い着いて並び、クラクションを鳴らしまくり、とうとう大型バスを止めてしまった。

 あっけにとられている私たちは"ヨカッタネ"と肩を叩かれてミニバスを降り、畑のなかの1本道で大型バスに乗り換えた。これもやはり、トルコ人の親切さの一端なのだろうが、かなりスリリングなカーチェイスだった。

 区間の途中から乗車したため、隣街で乗るよりも高い運賃を請求されたからといって、恨むわけにもいかない。

市場をふらつくジャポネは、お土産付き朝食に胸も一杯

チョック・ケバブの写真

 ドネル・ケバブは私たちの大好物で、もうひとつおいしいケバブがある。小さな羊肉を串刺しにして炭火で焼く、チョック・ケバブは、ほどよく脂が落ちて香ばしい。塩と胡椒の調味もあっさりしていてよい。

 最初にこのチョック・ケバブを食べたのは、イズミール近くのドライブインで、トルコ人は6串くらいをまとめてパンに挟んで串を引き抜き、サンドイッチにしている人が多い。その後1回だけイズミールで食べる機会があったが、他の街で注文してもなかったので、もしかするとイズミールあたりの名物料理なのかもと思う。

 トルコ第3の都イズミールは、港に軍艦が並ぶNATOの基地でもある。人々の服装やカフェの雰囲気などは、洗練されていてヨーロッパ的である。一方、商店がひしめく迷路のようなバザール(市場)は、いかにもトルコっぽい、アジア的な匂いに溢れている。

 市内バスで知り合ったNATO勤務の軍人が、日曜日の朝の野菜市を教えてくれたので、早朝に出かけてみた。

 まだ人通りの少ない道を歩いて行くと、トラックが次々と市に入る。荷卸しを見ると、トラック1台まるごとキャベツだったり、メロンだったりとすごい量である。

キャベツ屋の写真

 ひと抱えもあるキャベツやカリフラワー、長くて太いナスやら、日本の野菜よりも大ぶりのものが多い。ふらふらしていると、
「ジャポネ、食べてみるかい?」
と声がかかり、ハニーメロンやブドウ、トマトをご馳走になって朝食がすんでしまったうえ、ポケットには紅と青のリンゴを入れてくれる。売り手も買い手も男性ばかりの市で、外国女性が珍しいせいもあるが、トルコ人の人なつこさ、優しさに胸も一杯になる。

リンゴを齧りながらホテルに帰る道すがら、あのエデンの園を想い出した。禁断の実を食べた者は皆、この国が好きになるのだろうか。

(写真・文 野澤幸代)      

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