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カラチ、デリーと飛びはねて、秋の終りのヒマラヤに滑り込む

コンノート広場のダイコン屋の写真

政情不安と関税問題に脅え、5日間で飛び出したパキスタン

 私たちの旅は出発前に大まかなルートを決めたものの、実際に旅に出てみるとほとんどなりゆきまかせ、気分次第になってきた。

 トルコに長居をした結果、パキスタンのカラチに着いたのは11月だった。おりしも大統領選挙前の地方選挙期間中で、なにか街の様子がおかしい。スローガンの幕を張ったトラックの荷台に、角材を持った男たちがたくさん乗っていたり、タクシーや自家用車も支持政党の旗らしきものを掲げて走っていたりする。危ないカンジなのだ。

 領事館の方に相談すると、前ブット大統領死去の後政治的対立が深まり、選挙運動が過熱して暴動が起こる可能性がある。また日本人を狙った強盗事件が続けてあり、在留邦人は外出を極力控えている状況らしい。

 「はっきり言って、この時期の旅行は冒険と考えてください。駅など人の集まる場所では小さなケンカがすぐ暴動に広がることがありますからね」
と言われてしまった。異国で暴動に巻き込まれたらと考えると、やはり怖い。でも、桃源郷といわれるフンザにも行きたい。こんな揺れ動く私の気持ちに、夫の強い主張が勝った。夫の主張は誠に簡潔である。
 ●ビールのない国(イスラム国のため)は嫌だ。
 ●税関に預けてあるビデオカメラが心配で、もしいじくられて壊されでもしたらと思うと、1日も早く出国して受け取りたい。

 パキスタンはビールはもとより、アルコールは全面禁止で、外国人の持ち込みも許されない。とまぁ、これは前から知っていたのだから、いまさらこう主張するのは酒呑みのいじましさだ、と私は思う。

 しかし、ビデオカメラに関してはホント、ベラボーな話なのである。入国時に税関でひっかかり、国内価格の200%(約30万円)の関税を払うか、税関に出国まで預けるかの選択を迫られた。しかも、この関税は出国時に払い戻しされないというのだ。

 仕事ならいざ知らず、観光客の誰がこんな高い関税を払うのか。国内で不法に売買するのを防ぐためだと言うが、それなら入国時にチェックし、出国時に所持してなければ関税を徴集すればよい。インドなどではこの方法をとっている、といくら声を大にして言っても係官は譲らず、結局預けざるを得なかった。

 日本航空支社の人に尋ねると、製造番号のチェックだけで持ち込めるときもあり、対応がまちまちらしい。運が悪いといえばそれまでだが、夫は出鼻をくじかれて悪印象を抱いてしまい、結局、たった4日間でカラチを出てインドに飛んだ。ビデオカメラは無事だったが、私たちのこの国に対する気持ちは無傷ではなかった。

花火の音と火の粉にもまれて、祭りの夜のデリーを歩く

 沈んだ気分でインドに着くと、ちょうど『ディワリー』という祭りの最中で、デリーの街は華やいでいた。私たちが以前インドに来たのは10年前で、その前後しばらくインド熱にうかされてアジア志向が決定的になった。

夕暮れのコンノート広場を歩くと、懐かしさが胸に溢れてくる。日本車や高層ビルなど以前にはなかったものも目に入るが、人々の顔つきや流れる時間の濃度は変わっていない。

ディワーリーの菓子屋台の写真

 空が赤錆色に染まって暮れなずむと、ディワリーの飾り付けがまたたき始める。ヒンドゥー教のラクシュミー女神を祀るこの祭礼は、イルミネーションと燈火、花火で祝う幻想的な火の祭りだ。

 寺院や繁華街のイルミネーションは、欧米のクリスマスと比べると、もし寂しげに貧相ではあるが、周囲の闇が深いぶん美しい。家の戸口や窓辺に燈芯を入れた素焼きの小皿が置かれ、無数の火が数に吹かれて息づく。

小路での供え物の写真

 辻や小路に聖なる場所があるらしく、燈明や花、米をのせた盆を持った女たちが、次々と来ては供え物に置いて祈ってゆく。

 祭り用の銀箔つきの菓子が並ぶ往来では、子どもは手持ち花火と爆竹、若者は火花を高く吹き上げた末に爆発する花火をしてうかれ騒いでいる。火の粉を浴びたり、爆発音で耳が聴こえなくなったり、歩いているだけでも危険この上ない。でも、祭りの興奮に感染して、歩きに歩き回った。

タンドール料理店の写真

 旧市街のタンドール料理専門店に行き、広い中庭のキラキラ光る樹の下で食事をした。タンドール(土器の釜)で焼いたチキンや、串に羊挽き肉をつけたシーク・ケバブ、ナンというパン、カリフラワーの炒め煮などを、通りの喧騒から離れて食べた。今晩は家族と自宅で祝うらしく、客の姿は他に1組だけ。

 ヨーグルトとスパイスに漬けて焼いたチキンは、痩せてはいるが肉の味が濃くておいしい。水っぽくて太った鶏よりも、小ぶりでも身のしまった味のある鶏の方がいいな、と考えていたら、突然空からパンパンとかん高い音がふってきた。驚いて見回すと客も給仕も笑っている。誰かが店のトタン屋根に爆竹を投げたらしい。そう、今日は祭りだからいいんだ。

 ベッドでまどろみながら、花火の音と歓声を遠く近くに聴くうちに夜が明けた。ふらっと10年ぶりに来たインドで祭りに出会えたなんて、無性に幸せに感じられた。

(写真・文 野澤幸代)      

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