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カラチ、デリーと飛びはねて、秋の終りのヒマラヤに滑り込む

ポカラの街中の写真

焦ってネパールに駆けはせて日本食とダル・バータ

 ネパールでトレッキング(山歩き)をすることが、旅の目的のひとつである。時期としては花咲く春か、空が澄んでいる秋がいい。秋なら今すぐ行かなくては、雪がきてしまったら、来春まで待たなくてはならない。祭りが明けた日にそう思った途端、二人ともいても立ってもいられなくなり、3ヵ月のビザを取ったのに5日間でインドを出てしまった。あー、なんて無計画。

 カトマンドゥに向かう機上から、眼下に広がるインドの大地に、今回は祭りのハレの日も見れたし、きっとまた寄るから……としきりに言い訳をした。初恋の人に再会して、今のあなたも知りたいけれど、思い出もそっとしておきたい気持ちに似てなくもない。

 白き峰々を越えて着いた標高1400mのカトマンドゥは、空は澄み空気もすがすがしい。ネパールもヒンドゥー教なので、街の大通りにはディワーリー(ネパールではティハール)の飾りがまだ残っている。同じサリーを着ていても、彫りの深い北インドの人と比べると、ネパール人はぐっと身近に感じられる平らな顔で、体形は日本人よりも細くて小柄だ。

 ネパールを訪れる日本人観光客は、中高年の方がわりと多い。日本も山ばかりの国だから山岳信仰が強いし、特にヒマラヤは山を愛する人にとって聖地のひとつである。日本人の来るところ天ぷらとすき焼きありの常に違がわず、カトマンドゥには日本料理店がいくつもある。

 郷に入れば郷に従えで現地の食事をしてきた私たちだが、正直に告白すれば各国で1回は日本料理店へ行っている。そのほとんどの国では日本料理は高級料理の範疇に入るので、ひどく高くておいしくないことも多々あったが、カトマンドゥは違う。高級料理であることに違いはないが、さして高くなく、ほんとうにおいしい店が多い。刺身と寿司がないのが残念だが、足繁く通ってしまった。

 さて、ネパール人の食事はどんなものかというと、カトマンドゥと山岳地帯に住む人とではかなり異なるようだ。山の人の暮らしぶりは次号で語ることにして、町の人の食事の基本はダル・バータ・タルカリである。

 ダル(豆のスープ)、バータ(炊いた飯)、タルカリ(野菜や肉の炒め煮)が金属製の皿で供される。ダルを飯に混ぜ、おかずとともに右手だけで食べる。

スンダル君宅での食事の写真

 26歳で二児の父であるスンダル君宅でご馳走になった夕食は、ダルと白飯におかずは去勢山羊肉(ふつうの山羊肉より上等とされる)の煮込み、カリフラワーとナスの炒め煮、青菜の炒め煮だった。どれもターメリック(うこん)を使ってあるので見ためはカレー風だが、味つけは実にあっさりしている。豆は豆の味が、肉は肉の味が主体で、いわゆるカレーでは決してない。

 どこの国でも感じるのだが、家庭料理が一番おいしい。高級レストランも安食堂もやはり商売だからある種誇張した味なのに対して、家庭のおかずは中粛というか、静かに控えめにおいしさが伝わってくるのである。

ネパールでチベット料理。右手がきれいになるディロ

 ネパールにはチベット系の住民がかなりいて、古くからヒマラヤ山系に住む人たちと、1959年のチベット動乱以後に流入した人たちとがいる。カトマンドゥで、商売で成功して豪邸を建てた人や、広場で土産物を商う人、周辺の村で手工芸に精をだす人など、さまざまなチベット人に会った。

 チベット商人はおしなべて商売上手で、値切りのかけひきをしぶとく粘る。インド商人との値切り交渉は虚々実々のおもしろみがあって、強突くなわりにはひょいと息が抜けるのだが、チベット人は頑固一徹といった風情で、結局あまりまけてくれない。ネパール商人はその中間ぐらいで、そこそこ軽くてしぶとい。言い値と妥当な値段との差の違いもあるかもしれないが、上手く値切った充足感からいうとインド商人相手が楽しい。

 現在、中国のチベット自治区を個人旅行するのは難しいので、ネパールでチベット料理を食べつつ、対外解放を祈ることにした。

モモを作る人の写真

 チベット料理は中国側とネパール側とでは少々違うらしいが、ディロと呼ばれる主食を食べてみた。ディロはムギやヒエ、ソバなどの粉を熱湯で練ったもので、これを丸めてスープにつけて食べる。もう、やたらとベタベタ指にくっつき、食べ終わると右手がぞっとするほどきれいになっている。

 おいしいとはいい難いが、気圧の低い高地での調理には限界があるから、こういった主食が生み出されたのだろう。ディロはシェルパ族もよく食べるようだ。

モモの写真

 チベット料理で私たちが好きなのはモモだ。水牛や羊肉と野菜を包んだ小粒の肉まん風で、蒸したてにスープをかけて食べると水餃子のようでおいしい。餃子にそっくりなのはコーテーで、揚げコーテーが美味だった。

 ほかにもシャクパ(すいとん)やトゥクパ(雑炊)、トゥッパ(うどん)など、味つけは野暮ったいが日本人が馴染み易い料理があって嬉しかった。

霊峰を望む湖畔で飲む酒は、器も飲み方もふた味違う

 カトマンドゥから東へバスで約9時間、もうもうたる埃にまみれて咳込みながら、灰かぶりのように白ちゃけた姿で、ようやくポカラに着いた。

 ポカラはヒマラヤを間近に望むペワ湖畔のリゾート地で、ネパール王室の夏の離宮がある。夕映えに染まる8000m峰アンナプルナ連山と、鋭角にそびえるマチャプチャレを見たら、バスの疲れもすっかり吹き飛んだ。

 ここは標高が900mしかないので、バナナやマンゴーなどの熱帯性の樹を近景に、遠く万年雪を頂く峰々が見渡せる、実に高度7000m差の景色が一望できる。

 欧米人のトレッカーが集まる場所だけに、湖畔の通りには土産物屋、西洋料理店、カフェ、本屋、トレッキングの装備を貸す店が並び、ロックやレゲエが流れてくる。

 桟橋に立つとゆるやかな風が心地よく、滑るように走るヨットや、船で釣りをする老人をぼんやり眺めていると、太陽が湖の向こうの山陰にゆっくり沈んでいった。

ネパールの地酒の写真

 チベット料理の看板を出した店に入って、酒を3種注文したら、おもしろいものが出てきた。グラスに注がれた白い酒はチャンといい、シコクビエと米から造ったどぶろくで、飲み口は良いが結構酔いそうだ。

 透明な酒はロキシーで、チャンを発酵させ蒸留して造るという。これはいわば焼酎でかなりきつい。

 このふたつはまだ酒らしいが、問題なのはプラスチックの器に入った山盛りの粒々である。店の人によると粒々はシコクビエで、これに湯をかけて竹のストローで吸うのだそうだ。飲んでみると、味も香りも熱燗の日本酒にとても似ているが、ストローでチューチュー飲む感触は不思議だ。シコクビエに麹を加えて発酵させたこのトゥンパは、チベット系の酒で湯をかけて3回は飲めるという。

 夫はチャンが、私はこのトゥンパが気に入り、毎晩モモをつまみながら飲んだが、ひとつどうしても気になることがある。トゥンパの器だ。持ち手と注ぎ口のついたプラスチックの手桶なのだが、同形のものがトイレにもよく置かれている。事後にお尻を清浄する手桶と同形、同質なのだ。同一ではないと思って見ても、それでも気になってしょうがないのである。

(写真・文 野澤幸代)      

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