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やおら食文化探求の熱にうかされて、東から西へと飛んで走って、転ぶ

昔ながらのキッチンの写真

風変わりな旅客機でイリアンからアンボンへ

 ダニ族の豪快石蒸し料理に食の原点を見て感動した私と、イノシシの牙の鼻飾りを土産に買った夫は、2人して体を掻きむしりながら機上の人になった。

 ワメナ発の双発機に乗ると、ガラーンとした機内に座席はたったの8つ。物資を運んで来たカーゴ便が、この辺境の地からは積むものがなく、帰りの駄賃に客を乗せているらしい。乗客数に合わせて、今ボルトで床に留めた座席はガクガクするし、扉のないコックピットまでの何もない空間が心許ない。

 まッ軽いから早く着くかも……。

 ホントに定刻より早くジャヤプラに着いて、次に乗ったアンボン島行きのフライトも、なかなかに楽しめた。今度はキャンバス張りのベンチシートが向かい合って縦に4列で、背もたれ用に網が張ってある。映画で観た軍用機の機内に似ているから、もしかして軍のオサガリなのかもしれない。

 他の乗客は慣れたもので、水平飛行に移ると座席ですっかり横になって寝だす人もいる。配管がむきだしの天井だが、ちゃんとスチュワーデスがランチパックを配ってくれた。

 それに、預けたはずの荷物が後方に山積みになっているので、途中で本を出したりできて、至極便利であった。

 イリアン・ジャヤから、スパイスアイランドとして知られるモルッカ諸島の州都アンボンまで約4時間。4月のアンボンは雨季に入ったばかりで、明るく晴れて湿っていた。
「アナタ、ニッポンジン。ワタシ、ニコサン」
と話しかけてきた40歳代の男性がなぜか宿探しを手伝ってくれ、やっと4軒めに上品なエレノアおばさんのホテルに部屋をとった。

 このニコさんとの会話はほとんど意味不明だったのだが、後で人から聞いた話によると、彼の父は日本軍人であった。日本人との間にできた子供を、母ひとりで育てたアンボン女性は少なくないとも聞いた。ニコさんの目に、私たちはどう映ったのだろうか。

 インドネシアに来て1ヵ月。旅した各地で日本帝国の残影を見て、日本語を喋る年配の方にもずいぶんと出逢った。

 ある日、老夫人の手料理をご馳走になった。
「エナック(おいしい)」
と舌鼓を打っていると、突然彼女が、
「ヨシ、ジョートーカ?(上等か)」
と大きな声で言った。微笑む彼女の前で、返事に窮した私がゴクリと嚥み下したひと口は、錨のように深いところへ落ちていった。

食の世界は実に奥深い。アンボンで知るパペダ・マナー

 ダニ族と会って、突如として食文化探求の徒となった私が、アンボンに来たのはスパイスのためだけではない。モルッカ諸島では、イモやバナナ、サゴ椰子のでんぷんを加工したものを主食としているからだ。

市場のサゴレンペン屋の写真

 さっそく市場(パサール)に出かけてみると、見たことのないものがたくさんある。サゴ椰子ででんぷんをビスケットのように焼いたサゴレンペンや、でんぷんを詰めた椰子葉の樽、バナナだって6種以上あって、何が何やらわからない。

 観光局で誰かガイドをと相談すると、デ・リマ夫人を紹介された。ポルトガル名をもつアンボン生まれの夫人は、夫亡き後旅行会社を経営する気丈な、とっつきにくいけど心は優しい素敵な女性だった。彼女の全面協力で知ることのできた、アンボンの食生活の一部をご紹介しよう。

サゴ椰子の解体作業の写真

 伝統的な主食はサゴ椰子から採ったでんぷんを型に詰め、焼いたサゴレンペンだ。朝食はこれをコーヒーか、紅茶に浸して軽く食べる。天日で干したサゴレンペンは10年はもつというから、完璧な保存食でもある。

アンボンの伝統的名物料理の写真

 昼と夜は、魚を葉で巻いて焼いたものや揚げ魚のスパイス煮、パパイヤやバナナの花の和えものなどをサゴレンペンか、またはパペダと食べるという。

 おもしろいがこのパペダだ。サゴ椰子のでんぷんを熱湯で溶いてレモン汁と塩で調味するのだが、日本の葛湯とそっくりである。
「日本の兵隊さんは、パペダに砂糖を入れて喜んで食べていたョ」
と調理担当のおばあさんが語る。

 水飴を練るときと同じに2本の箸を回してパペダを皿に盛り、料理の汁をかけて食べる。
「今は皆スプーンで食べるけど、正式なパペダの食べ方を見せてあげましょう」
とデ・リマ夫人が皿を持ち上げ、パペダを直接ズズッとすすり込んだのには驚いた。料理を手で食べるのには慣れている私だが、ここでは手さえも使わずに食べるのだ。あぁ、食の世界はなんと奥深いことか!

アンボン伝統パペダの食べ方の写真

 私もズズッとしてみたが、口に入ってこないか、果てしなく入ってきてしまうかのどちらかで難しい。エクセレントなパペダのマナーを習得できたら、名誉アンボン市民として表彰されてもいいと思う。

 私のために特別観光メニューを組んで、数日間行動を共にしたデ・リマ夫人が、アンボンを発つ日に空港まで見送ってくれた。サヨウナラと抱きしめられると、涙がジワッと溢れた。スキンシップに不慣れなせいもあるが、きっともう会えない、という気持ちが心の隅にひっかかり、旅の別れをつらくさせる。

(取材協力/スンダン・ブッディ・ツアー&トラベル アンボン)

(写真・文 野澤幸代)     

※文章・写真の無断転載、複製を禁じます。


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